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2016年11月 1日 (火)

《エリオガバロ》

カヴァッリのオペラ《エリオガバロ》を観た(パリ、オペラ座ガルニエ)。

パリのオペラ座は2箇所あって、昔からオペラ座と言われていた方は、建築家の名をとってガルニエといい、新しい方は場所からバスティーユという。プログラムを見ると、演目名が並んでいて例えば《エリオガバロ》はガルニエで上演するが、《トスカ》はバスティーユで上演という具合だ。
オペラ座(ガルニエ)はナポレオン3世の時に建築が決定されたもので、建物はモニュメンタルに大きく、中は金ぴかというか絢爛豪華である。フォアイエも広い。
しかし、観客席はさほど多くはない感じだ。僕はたまたま指揮者の真後ろの席、補助席に座った。そのせいで、係りの人が指揮者の楽譜を持ってきた譜面が見えたのだが、バロックオペラでは珍しいことではないようだが、スコアと言ってもほとんどピアノ譜のようなもので、2、3段しかない。楽器の指定もない。
チェンバロが3台いて、リュートを弾く人が3人いた。リュートは向かって左に1人、右に2人なのだが、ちょっと複雑である。左の人は楽器を変えずリュートだけを引いていたのだが、右の2人はギターとリュートとテオルボ(大きなリュート)を何度も持ち替えていた。他にヴィオラ・ダ・ガンバもいて、この通奏低音奏者たちは指揮者に近いところをぐるっと囲んでいた。やや左奥に、ヴァイオリン。右奥にトランペット、その他の管楽器がいた。
もっと離れた席ではどう聞こえたのかわからないが、リュートがステレオで微妙にずれて聞こえてくるのは不思議な感じだった。彼ら(2人男で1人女)は細かいパッセージを奏でているが、直接楽譜にかかれているものではないのは、通奏低音の通例と言っても良いだろう。
指揮者が立っている時は譜面が見えないので確認はできなかったが、おそらくはあるメロディをヴァイオリンが弾いたり、管楽器が奏でたりするがその楽器指定は楽譜にあるのではなく、今回の楽譜を編纂した人、あるいは指揮者、あるいは奏者が選んだものではないかと思う。バロックの時代にはそれが通例だったようである。
カヴァッリの音楽は、モンテヴェルディ(カヴァッリはモンテヴェルディが楽長のもとでオルガニストを勤めていた)と比較すると、メロディが平らかで音楽の表情が穏やかで、どちらかというと旋律ラインをおぼえにくい。
演出は演劇やロックの演出をこれまでしてきたトマス・ジョリー。服装や舞台装置は蓋然的にローマ時代ということで違和感はなかったしレーザー光線の使用もなるほどというものだったが、レーザー光線の難点は、強い光なので目がくらんでしまいたとえばファジョーリの顔に金色の彩色がほどこされていたことが見えなくなってしまう、気がつかないということだ。あとでネットで画像を観て気がついたのである。ぼくの座席は一度目は最前列、二度目も10列以内だったから舞台から遠くはないので、遠いからではなく、まぶしい光のせいであったと思う。
歌手はタイトル・ロールがフランコ・ファジョリ。堂々たる舞台姿と歌であるが、曲自体にもっと超絶技巧を求める箇所があったらなどとないものねだりをしたくなる。アレッサンドロがポール・グリーヴズ。彼は、感情をこめて歌おうとする姿勢は悪くないのだが、時々音程が怪しいのがたまにキズ。ジュリアーノがサバドゥス。カウンターテナーで声量は大きくないがきれいな声で歌の様式にあう。それと対照的なのが女性歌手陣で、カウンターテナーと比較すると声は大きいのだが、歌の様式観に欠けるうらみがあるのだが、生身の女性が情感豊かに歌うと瞬間的にはカウンターテナーの歌を圧する感じになってしまうのだ。
今回の上演ではカウンターテナーは2人であったが、4人くらいカウンターテナーの方がよかったのではとも思えた。つまり女性役もカウンターテナーで歌の様式をそろえた方がよかったと思えた。女性歌手であれば、もう少しファジョーリやサバドゥスの歌と調和するような歌い方の歌手ならば、とも思ったが贅沢な要求かもしれない。
また、ガルニエの特性かもしれないが、歌手の声の反射音が聞こえず、すっと吸い込まれるようでカウンターテナーにとってはつらい劇場だろうと推察した。
しかしながら、メジャーな劇場では上演がまれなカヴァッリのオペラをシーズンのオープニングに持ってきたオペラ座の快挙は賞賛さるべきだと思う。ヨーロッパでは、ここまでバロック・オペラがオペラファンに浸透してきたのだとも言える。日本でも、来日歌劇場の演目、新国立の演目に変化が起こってもよいのではないだろうか。
 
 

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