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2016年8月30日 (火)

《フィガロの結婚》

モーツァルトの《フィガロの結婚》を観た(ザルツブルク、モーツァルト劇場)。

《フィガロの結婚》がどれだけの傑作かを感じることは案外難しいことかもしれない。たいていの人はオペラを聞きはじめた頃にこの曲に慣れ親しむ(僕もそうだった)ので、この曲がオペラ・ブッファの基準になりかねないのだ。
しかし、第二幕の複雑さは、ストーリーにつられて、ハラハラドキドキする(それを持続させる台本=リブレットの巧みさも特筆すべきであるが)ままに、次から次へと珠玉の音楽が繰り出される。登場人物が多いのに、リブレットの展開と、音楽によるキャラクターの描き分け、場面・状況による描き分けがあまりにも適切で、複雑さを感じずにすっと頭に入る。
ものすごく頭のいい人が、複雑なことをその複雑さを捨て去らずにすっきりと話してくれるのを聞くと、なんだかこちらまで頭が良くなったような気がすることがあるが、それの極上の体験を音楽でしている感じだ。
モーツァルトの中には、ケルビーノのアリアや伯爵夫人のアリアのようにロマン派に通じる表現もあるし、ロッシーニなどに見られる早口でまくしたてるフレーズ(この日の演者は口があまり回っていなかった。この辺りはロッシーニ歌いは見事なものです)もある。その一方で、バロック的な軽やかな響きも残っており、モーツァルトをどういうスタイルで演奏するか、歌うかは様々な可能性を秘めているともいえよう。
この日の演出は1幕がなかなか面白く、舞台は2階建てになっているのだが、今歌っている人だけでなく、次に出番の人が隣の部屋や上の部屋をうろうろしているところを見せる。また、例えばフィガロが偶然入ってきたという場面も、フィガロはドア越しに聞き耳を立てていて、さてというタイミングで入る、という仕掛けにしていた。
指揮はダン・エッティンガー。時々、アリアの途中で、極端にテンポを落とすところがあったが、あとは通常の範囲内。
興味深かったのは第四幕。フィガロの結婚は、第四幕が難しい。一定レベルの歌手、オケ、指揮者が揃えば3幕まではそれなりに楽しめる。第4幕はだれてしまうことが多いのだ。4幕で注意すべきことはいくつかあるだろう。1つは舞台が戸外になっていること。これまで密室劇で、いるはずの人がいない、ケルビーノのはずがスザンナだったなどという一種の手品が繰り返されており、第4幕でもスザンナと伯爵夫人が衣装を取り替えてしかも伯爵を庭で逢い引きするよう誘っている。
つまり、これまでは室内だったのが戸外になった。さらに、これまでは言い逃れのアクロバットだったものが、スザンナたちが伯爵に誘い、トリックを仕掛けている。そして、見逃しがちなのが、戸外に出たことで、歌詞の中に牧歌的な要素(これまでにも、ケルビーノのアリアにはあったのだが)がでてくることだ。牧歌的要素が室内よりも庭や戸外の方が似つかわしいのは言うまでもないだろう。
こうした変化をどう表現するか。
この日のフィガロ、アダム・プラチェツカは、第四幕から明らかに表情を大げさに、仕草も大げさに演じていた。4幕では、スザンナ扮する伯爵夫人とフィガロの(見せかけの)ラブシーンがあるが、シャツをはだけ、ズボンを下ろしかけ、ベンチの上で大げさに(観客の笑いを誘っていたが)セクシュアルなは動きを見せた。これは1つの工夫だったと思う。つまり、第3幕までと第4幕が違うのだということを示すための。
また、音楽が鳴り終わってからも演技が続く(庭での宴会が続く)というのも意表をついていた。
伯爵はルカ・ピサローニ。伯爵夫人アネット・フリッチェ。スザンナ、アンナ・プロハスカ。彼女は歌は良いのだが、発音がパルランテ(語るように歌う)になると聞き取りにくいのが惜しいと
思う。演技は上手いのだから、ここを直せばずっと説得力を増すと思う。アネット・フリッチェの方がビブラートがかかる声なのにもかかわらず言葉はよく聞き取れるのだ。ケルビーノ、マルガリータ・グリツコヴァ。マルチェリーナ、リリアーナ・二キテアヌ、バルトロ、カルロス・ショーソン。
上演時間ということでなく、音楽的内容でいうと、フィガロの結婚は最も長大なオペラであると感じる。無論、退屈ということではなく、中身が詰まっているという意味においてである。
 

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