カッチーニ作曲《エウリディーチェ》
カッチーニ作曲のオペラ《エウリディーチェ》を観た(川口、リリアホール)。 リリアホールははじめてである。川口は、埼玉県だが東京の赤羽から1駅。つまり荒川をわたれば川口であり、リリアホールは駅から地上に降りることもなくホールにたどりつける。ホールは大きくはなく、こうした小さな編成のオーケストラにはうってつけだ。客席のまわりの壁もすべて木におおわれ、正面には立派なパイプオルガンが備え付けられている。
カッチーニの 《エウリディーチェ》はオペラ史の本、教科書に必ず出てくる。フィレンツェでオペラが誕生した際にいくつかの作品の上演があったわけだが、これが楽譜が残存しているものとしてはもっとも古いのである。オペラの最初の傑作とされるのはモンテヴェルディの《オルフェオ》であるが、モンテヴェルディがこのフィレンツェの諸作に大いに刺激をうけたことは言うまでもない。
オペラ史の教科書では見るものの、実際の上演は今回が日本初。大変貴重な機会である。
上演した団体はアントネッロといい、すでにモンテヴェルディの残存するオペラを3つとも上演している。無料で配布されるパンフレットは大変充実していて、歌手陣の紹介の他に、演出の家田淳氏の演出ノート、アントネッロを率いる濱田芳通氏による演奏ノートがあり、後者には《エウリディーチェ》のオリジナル楽譜に、濱田氏の考えによりカッチーニの歌曲集から数曲を付け加えたこと、あるいは他の場面にはマリーニやカヴァリエーリなどの曲が挿入されていることが細かく記されている。
この追加は、《エウリディーチェ》がいわゆるレチタール・カンタンドというレチタティーヴォが少しエスプレッシーヴォになって(音楽的表情が加えられて)いるので、多少アリア的な要素、あるいは前奏曲や間奏曲的な要素を付加して、観客にサーヴィスをしてくれているのだと思う。
舞台は、ステージの上に小編成のオケがいて、その周りおよび二階部分(パイプオルガンの奏者がいるはずのあたり)を歌手が演技の場として用いる。セミステージで、大々的な装置はないが、そのことは気にならないし、おそらくは1600年ごろの上演でもそうだったのではないだろうか。
周知のごとく、《エウリディーチェ》(台本はオペラ史上最初のリブレッティスタ、リヌッチーニによるもの)は、ストーリーはギリシア神話がもとになっている。オルフェオとエウリディーチェのカップルがいて、結ばれた喜びもつかのま、エウリディーチェが毒蛇にかまれて死に、それを嘆いたオルフェオは黄泉の国にいって、黄泉の国の王プルートに嘆願してエウリディーチェをとりかえす。そこからがオペラではいくつかのバージョンがあって、本来の神話では、地上に出るまでオルフェオはエウリディーチェを振り返ってはいけないと言われるのだが、途中で振り返って、再びエウリディーチェは黄泉の国に引き戻され、オルフェオは一人さみしく地上にかえり、バッコスの巫女に引き裂かれるという悲劇的結末。しかし、オペラ誕生時、オペラが作曲されるのはパトロンの貴族の祝事によせてのことが多く、実際、カッチーニの《エウリディーチェ》も、フィレンツェのマリア・デ・メディチとフランスのアンリ4世の結婚を記念してのものだったから、結末はハッピーエンドに変えられて、オルフェオの愛の力で、エウリディーチェをとりもどせてよかった、という結末になっている。
今回の演出では、羊飼い・妖精たちが個々に名前を与えられて、それぞれカップルになっているという想定。リヌッチーニのオリジナルのリブレットでは、ダフネ以外は第一のニンフ、第二のニンフとなっており、羊飼いもアミンタなどの名はなくて、第一、第二、第三の羊飼いとなっているのである。
演奏は、上質なものであった。多少の調子の良し悪しはあるものの、歌手はレチタール・カンタンドとはこういうものだったのだとわれわれを一時タイムマシンにのせてくれたのだった。イタリア語の発音もしっかりしていた。
残念だったのは、ハープとチェンバロを担当するはずだった西山まりえ氏が出演できなかったことだ。オルフェオが竪琴をかきならす時にハープの音がするはずだったのだと思う。また、チェンバロがいないと、リズムがともすればシャキッとしない瞬間があるのだということも判った。
という過酷な条件のなかで、アントネッロと歌手陣は、十二分に観客を楽しませてくれたと思う。感謝、感謝である。会場は満員であった。東京圏にいると日々の満員電車や人混みのストレスもあるが、こういう稀有な催しに出会える幸せもあるということか。
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コメント
ごぶさたしております。
我が町の川口リリアにお越し頂き、ありがとうございます。
ヴェルディやプッチーニといったイタリアオペラはなかなか上演しませんが、せっかくなので一度見に行こうと思います。
投稿: raimondi | 2016年1月31日 (日) 21時23分
おひさしぶりです。
バロックオペラの小編成は川口リリアにぴったり合っていたと思いますよ。
駅から近いのも便利ですね。
投稿: panterino | 2016年1月31日 (日) 22時42分
おひさしぶりです。
バロックオペラの小編成のオケ、川口リリアにとっても合ってたと思いますよ。
駅から近いのも便利ですね。
投稿: panterino | 2016年1月31日 (日) 22時44分