《エジプトのジュリオ・チェーザレ》
ヘンデルのオペラ《エジプトのジュリオ・チェーザレ》を観た(東京初台・新国立劇場、中劇場)。
ダブルキャストで僕が観たのは日曜日。土日とも完売だったとのことで、大変めでたい。それだけ、ヘンデルのオペラ、あるいはバロックオペラを観たいという人が増えているということではないだろうか。
寺神戸亮氏らのラモーのオペラ上演や個々の団体の意欲的なモンテヴェルディ以降のバロックオペラの上演、来日団体の上演、また、ヨーロッパでバロックオペラの上演が盛んになっているという情報、映像が相乗効果をあげて、今年は日本におけるバロックオペラ本格上演の画期的な年となるのではないだろうか。
前述のように、意欲的な団体がいくつもの試みによりオペラファンの間に種をまいてこられた活動が、ようやく実を結びつつあるという意味だ。メインストリーム、あるいはレパートリーの中にバロックオペラも入れるかもしれないという兆しがでてきたのではないだろうか。ぼくがその兆候を感じるのは1つは今年の初頭のNHKのニューイヤーオペラコンサートで、ヘンデルの《リナルド》から4曲が演奏されたことだ。NHKは日本全国で放映されるのだからインパクトは大きい。また、今回、オペラ界の老舗二期会(今回の上演は、東京二期会の二期会ニューウェーブ・オペラ劇場と銘打たれている)が取り上げることの意味は小さくないと思う。場所も新国立劇場であるし。
誤解はないと思うが、相対的にマイナーな劇場で上演されたこれまでの上演の意味が小さいと言いたいのではない。むしろそれこそが先駆者として、賞賛に値する意欲的かつ志の高い試みであったのだ。
今回の上演で感じた課題。オケは素晴らしかった。ニューウェーブ・バロック・オーケストラ・トウキョウって聞いたことないと思っていたら、「本公演を機に、あらたに創設された、ピリオド管弦楽団です。国内外の第一線のピリオド楽器奏者とともに、東京芸術大学、桐朋学園大学などの器楽専攻生により構成されています」とのこと。指揮は鈴木秀美氏でまったく文句なし。リズム感も柔軟だし、通奏低音がズンズンと決めてほしいところはしっかり決めてくれる。しかも歌手に歌いやすいように音量調整も自然かつきわめて巧みであった。
歌手にはばらつきがあった。ヘンデルの曲には、ラルゴ、アダージョといった表情記号がつくようなゆったりとしたテンポで悲しみや嘆きをせつせつと訴える曲もあれば、王や将軍が堂々と自分の世界観を述べる(この作品ではチェーザレの曲、実に名曲で、ホルンの響きが絶大な効果をあげている)曲、かと思えば、激情にかられたテンポの早いアジリタを駆使して駆け抜け聴く者を興奮させる曲もある。
ゆったりした曲をしみじみ歌うのはほとんどの歌手がとても上手で二重唱でも息がぴったりあいさすがであった。問題なのはテンポが早く、装飾音の連続が続く部分である。
こういったところはテンポを緩めると気が抜けてしまうし、口が回らずに音が抜けてしまっても残念な感じがする。それと中劇場にもかかわらず、声が響きわたらない人もいた。調子が悪かったのかもしれないが。
歌手によっては高いレベルの達成も見られた。こういうのは岡目八目で、ロッシーニでもヘンデルでも、細かい音の動きが出来る歌手を知ってしまうと、それに近いものをつい聞く者はもとめてしまう。現代はDVDやCDも普及しているので歌手の方々にはきびしい時代だと思う。しかしながら、生の音の強みは絶対的なものとして存在するので、
その人としてある様式的な美に達していれば、絶対的な速度や回転が他の歌手と比較して劣っているから評価しないということは全くない。これからの若手歌手の成長におおいに期待したい。個人的には、すべてのレパートリーを歌う人ばかりでなく、バロックからベルカントまでしか歌わないという歌手(軽めの声で小回りがきく)が、ひとかたまり出てきてくれればと思う。今回の上演ではなぜかカウンターテナーは登場しなかったが、これについても同様の期待を持っている。
全体としては、ヘンデルの本格的なオペラの本格的な上演を日本で観られて、とても幸せな気持ちでした。これからもヘンデルやヴィヴァルディのオペラが上演されることを強く期待しています。
それからブログを書くものとしてのお願いなのですが、ブログに掲載してもよいような写真を何枚かアップしておいてくださると助かります。練習風景でもいいし、舞台装置がはいった写真でも結構なので、コピーライトの問題をクリアした形で自由に利用できるようにしてください(劇場内では撮影録音は禁じられているので、ご配慮をお願いしたいです)。
舞台は、最初、ヒエログラフ(象形文字)の書かれた神殿というか宮殿のようなものがあり、両袖にドアがあって、そこから人が出入りをして、舞台全体が必要に応じて回るので、どんどん別の部屋にはいっていく感じになる。
エジプトの部下たちは、頭におおきなワニのかぶりものをかぶっている。主要登場人物は耳になにかとがった耳たぶをつけていた。
ワニたちは、登場人物のアリアのときに、音楽にあわせて時にはユーモラスな踊りを踊る。演出は、適度にモダンで、かつ、人物(かなり多い)の関係の整理の仕方もわかりやすくて好感がもてた。
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