『オペラ座のお仕事』
三澤洋史著『オペラ座のお仕事ーー世界最高の舞台をつくる』(早川書房、1600円)を読んだ。
内容もきわめて興味深いのだが、非常に文章がうまく、読みやすい本である。テンポの良い文章が続き、一気に読めてしまう。
三澤氏は、現在、新国立劇場の合唱指揮者をつとめている。海外の本格的な歌劇場には専属のオーケストラ、合唱団、バレエ団があるが、新国立劇場は、専属のオーケストラやバレエ団はなく、合唱団だけが専属で存在している。
この本は、三澤氏の音楽的な自伝であり、また、日々の仕事の苦労や楽しみが、小気味よい文でつづられている。意外なことに、三澤氏は、子どもの頃から音楽づけ(たとえば3,4歳からピアノを習った)ということはなく、群馬県の新町で野生児といった趣でのびのびと育った。中学生になってグループサウンズに興味を持ち(彼は1955年生まれ)、ギターを弾き始める。そこでコードに出会い、音楽の仕組み、構造に興味を持つ。
隣家の医師がジャズバンドをやっていて、そこにも引き込まれ、コードへの関心を活かしてビッグ・バンド用の曲を小バンドへと編曲するという作業をする。三澤少年は、大変にクリエイティブに音楽と関わっていくのだ。ジャズをやると同時に、高校に入ると同級生からクラシック音楽の手ほどきをうけ、深い関心を抱くようになる。
なんというか、幼少時から教則本にのっとって音楽の訓練を積んだ人が、しっかしとしたレールの上を走っているとすれば、三澤少年は、ジープのようなクルマで砂利道であれ、林道であれ、あるいは道なき道を自由に駆け巡っていたという感じなのだ。だから、洗練された完成された作品をなぞるということになりがちなお稽古ではなく、彼自身が音楽を立ち上げる、作っていくというプロセスに深く関わっている。
そのたくましい創造性は、音大生になってからも、プロの指揮者になってからも健在である。
後半で面白いのは、指揮者と合唱指揮者との役割分担、そのぶつかり合いを通じての相互理解だ。西欧人と仕事をするときには、以心伝心を期待するのは間違いで、言うべきこと主張すべきことは主張して、互いの考えを理解していくというハードなプロセスがあることがよく判る。
バイロイトやスカラ座での氏の修行ぶりも感嘆に値する。註が、同じページの下についているのも読みやすくて良い。
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