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2015年5月24日 (日)

『マキァヴェッリ』

北田葉子著『マキァヴェッリ』(山川出版社、800円)を読んだ。

一気に読めた。この本は、世界史リブレットの1冊で、本文は79ページ。この長さはなかなか良い、と思った。つまり、ウィキペディアよりは詳しいが、分厚い専門書よりは、はるかに気軽に読める。
気軽に読めると言っても、中身は濃い。マキァヴェッリの著作を、彼と同時代人ではあるが、出自の異なるグイッチャルディーニの著作と比較して、マキァヴェッリの時代における彼の偏差を明らかにしている。
また、彼の実際の職業生活もメディチ家との関わりを中心につぶさに語られる。そのなかで、マキァヴェッリが一方で『君主論』を書きながら、共和政を支持していた理由が明らかになる。彼の理想は古代ローマの共和政なのだ。
マキァヴェッリの思想だけでなく、個人としてのキャラクターを示すエピソードも豊富で、賭け事が好きであったり、宗教心がきわめて薄かったり、同性愛に対してまったく嫌悪感をしめしていないなどといったことがわかる。
ルネサンスというと美術に関心が偏りがちだが、美術にだけ焦点をあてるとその時代にイタリア(半島の諸国)が政治的な危機の時代だったということが見えにくい。本書はマキァヴェッリの思想・生涯を通じてその危機的な状況もすっと理解が深まる仕組みとなっている。
こうした記述がすっきりとした文体で語られるから読みやすいのだが、読後の充実感はそれだけでは説明できない。北田氏が歴史家であることからくる美点だと思うが、彼女はマキァヴェッリの行動や思想を語るときに、絶対に現代の価値観で裁断しない。その時代にはどういった考え方が流通していたのか、その中でマキァヴェッリはどれくらい独自であったのか(どの程度の偏差があったのか)を、丁寧にときほぐしてくれる。
だから、マキァヴェッリや『君主論』が虚空の中にぽつんと浮かびあがるのではなく、厚みをもった人間として、さらには周りの情景もふくめて描かれているという感じになる。
マキァヴェッリは、メディチ家の人々に仕えただけでなく、チェーザレ・ボルジアのもとに使者として派遣されている。登場人物には不足はない。しかし、ちょっとした工夫だと思うが、北田氏はあえて、マキァヴェッリ没後のフィレンツェにも筆をのばしている。それによってマキァヴェッリは遠近感をともなった情景におさまっている印象をうけた。
写真、図版が豊富なのも大いに読解を助ける。メディチ家の人だけをとってもファースト・ネームがロレンツォとかジョヴァンニとか複数いるので、画像があるのはとてもよい。また、註が同じページの上にある(頭注)なのもいちいちページをめくらなくて快適である。

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