《湖上の美人》
ロッシーニのオペラ《湖上の美人》を観た(ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場)。
1階の奥を取ったら、2階席がかぶっているため音響的にはオケの音がすっきり聞こえない。視覚的には1階のほうがよく見えるが、音響的にはファミリーサークルと呼ばれる天井桟敷の安い席のほうが、声とオケのバランスがいいように思える。ただし、ファミリーサークルの場合には、歌手の姿は小さくなるので、オペラグラスが必要だ。
さて、メトで《湖上の美人》は今シーズンが初演とのこと。同一プロダクションではないが、2010年にパリのオペラ座、2011年にスカラ座、2013年にロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスと公演があったので、メトも満を持して?この演目に取り組んだのであろう。ヘンデルの《ジュリオ・チェーザレ(ジュリアス・シーザー)》でも思ったが、メトの演目はじょじょにバロックやロッシーニのオペラセリアを取り入れつつある。それは先行するヨーロッパでの動きを横目で確認しつつ、軌道修正をしているようにも見える。
メトやウィーンの国立歌劇場は、毎日演目を変える方式で、1シーズンの上演演目が多いし、かかえているレパートリーも多彩だ。規模もあらゆる意味で大きい。ヨーロッパの夏の音楽祭などでの上演のほうが、小回りがきくし、先端的なプログラムを取り上げやすい(その場合、必ずしもスター級の歌手を使う必要がない)。自動車でも、軽くて小さな車は小回りがきくし、バスやトラックは積載量は大きいが小回りはきかない。それぞれに特徴があるわけだ。
今回の配役はメトらしい豪華なもので、主人公エレナがジョイス・ディドナート。アジリタは絶品でした。その恋人マルコムはダニエラ・バルチェローナ。ズボン役です。ロッシーニのオペラセリアでは、お小姓ではなく、堂々とした男性の役をメゾやアルトが歌うオペラセリアはいくつもある。バルチェローナは体格も立派で堂々たる勇士。その2人の間にはいり結果的にエレナに横恋慕するのが王ジャーコモのフローレス。王ジャーコモというのはこれがもともとスコットランドの話なのでジェームスのことである。しかも芝居のうえでは身をやつしてウベルトという名で出てくるのだ。ややこしい。
指揮は、ミケーレ・マリオッティ。ロッシーニ・オペラ・フェスティバルやボローニャ歌劇場で活躍していたが最近メトでも振っている。彼の指揮はゆっくりめで、歌手にたっぷり歌わせていたが、さすがに3重唱のところでは、ディドナートがテンポをおとし加減のところをテンポをゆるめぬ日もあった。
原作はウォルター・スコットの Lady of the lake という物語詩であるが、これが出版されたのが1810年で、ロッシーニの初演は1819年だから、かなり新しい作品をとりあげたと言えよう。スコットはロマン派としてヨーロッパ中で大流行したのである。この作品の場合は、騎士たちが王党派、反王党派などに別れて闘いをくりひろげつつ、どちらもエレナに恋をする、最後には王が皆を許し、めでたし、めでたしという台本である。
メトのような大歌劇場が、ロッシーニのオペラセリアを取り上げるということが時代の変化を感じさせる公演であった。
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