『ピエタ』
大島真寿美著『ピエタ』(ポプラ社、1620円)を読んだ。
ヴィヴァルディのピエタ慈善院での教え子が語り手である。ヴィヴァルディの死の知らせから小説ははじまり、彼の周辺人物の交流が静かに語りつむがれる。
叙情的な味わいに富んではいるのだが、ヴィヴァルディの音楽生活はほとんど浮かびあがってこない。ないものねだりなのかもしれないが、せっかく語り手をヴィヴァルディの教え子に選んでいるのであるから、もう少し音楽活動が描かれているとよかったと思うのは僕だけではないだろう。
ヴィヴァルディの生涯を語るときには必ずアンナ・ジローという歌手とその異母姉がいつもそばにいた(旅行にも同伴した)ということが書かれ、彼女との関係をどう考えるかというのが1つのテーマになるのだが、作者は、ここをすりぬけ、クラウディアというコルティジャーナ(高級娼婦)を登場させている。
エミーリアのようなピエタ慈善院に来る子どもの来歴が描かれたり、エミーリアと貴族の娘の交流がこまやかに描かれたりする。
歴史に舞台を借りてはいるが、身分や立場の異なる女性間の交流を描いた物語として読むべき小説なのかもしれない。
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