《アレグザンダーの響宴》つづき
ヘンデル作曲のオード《アレグザンダーの響宴》のつづき。
この公演ではプログラムが500円で売っていたが、20数ページであるが、大変充実した中身の濃いものである。
この公演はヘンデル・フェスティバル・ジャパンの第12回とのことで、指揮者の三澤寿喜氏は、フェスティバルの実行委員長でもある。また、この公演より一ヶ月前に三澤氏による「《アレグザンダーの響宴》の魅力」という講演会が池上ルーテル教会であり、筆者はそれにも参加したが、説明は詳細にして明解で、なおかつ三澤氏のヘンデルへの情熱が伝わってくる講演だった。
プログラムでも、三澤氏がこの曲の成立の由来や構成(初演や再演のこと、なぜハープ協奏曲やオルガン協奏曲が挿入されるか)、ききどころなどを詳しく解説しておられる。
プログラムには、歌詞が日本語と英語(この曲はもともとが英語で、今回の上演も英語です。ぼくは2年ほど前にザルツブルクでドイツ語版の上演を聞いたことがありますので、ドイツ語圏で上演する場合にはそういう選択肢もあるということなのかと思います)が対訳で掲載されているが、訳注があるだけでなく、訳者赤井勝哉氏による詩人ドライデンや台本作者ハミルトンについての詳細な解説がある。詩人ドライデンは、英文学史では超大物(17
こういう構成になっていると、訳文だけをさっと読みたい人はそうすればよいし、より詳しく原作者、リブレッティスタのことを知りたい人は解説も読めばよいので、様々な読者にたいして大変親切である。
海外から招聘されるオペラ公演のプログラムの中には(むろんすべてではないが)、立派なアート紙に印刷され、出演者のカラー写真は掲載されているのだけれど、楽曲についてはあらすじプラスアルファくらいで、深い記事が皆無でがっかりすることがある。
今回のプログラムには、伊藤美恵氏(公演でのハープ奏者)による、「バロック・ハープについて」という解説がある。1ページであるが、当日の演奏で用いられたバロック・ハープ(氏所蔵のもの)の写真が掲載されており、ハープの前面に女性(女神?)が彫刻されていることがわかる。さらに重要なのは、当日僕も気がついたのだが、このハープにはペダルやレバーがないのが何故なのかがこの解説を読むとわかる。
16世紀までハープは全音階で、半音を弾くには指で弦をおさえて弦の長さを調節して出していたのだ。それがおそらくはスペインで全音階と半音階が1列ずつならんだ、2列の弦のハープが誕生し、さらには3列のものもイタリアで17世紀に発明された。
3列のものはトリプル・ハープというのだが、伊藤氏によると、両サイドの弦はピアノの白鍵に相当し、真ん中の列が黒鍵に相当するのだそうだ。そして、真ん中の列の音を弾くにはサイドの弦のあいだを通して指をいれてはじくのだという。
こういう説明は、専門家でなくては出来ないし、その場で演奏を観ていたのだが、この説明を読んで、筆者は目から鱗であった。
公演を通じて、プログラムを通じて、聴衆を育むという姿勢を感じた。
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