《ポッペアの戴冠》
モンテヴェルディのオペラ《ポッペアの戴冠》を観た(初台、オペラシティコンサートホール)。
ヴァーグナーのオペラが3管編成、つまり大編成のオーケストラであったのに対し、この日のモンテヴェルディは楽器を演奏するのは8人だった。
ヴァイオリンが3人、チェロ1人、コントラバス1人、指揮者兼チェンバロ1人、リュート1人、ハープ1人である。ピリオド楽器を用いている。音量は大きくないが、ホールの響きが良いこともあって不足はまったく感じなかった。むしろ、一人一人の奏者の細かいニュアンス、弦へのアタックや、ピチカート、レガートの違いが手に取るようにわかる良さがある。
また、オケの大音量にかきけされる懸念がないので、歌手も大声を出すことに注力するのではなく、音楽の表情、場面ごとに表現すべき性格に注力できる良さがある。
なんといっても圧倒的な歌唱力をみせたのはタイトル・ロールのロベルタ・マメリ。会場の空気を完全に把握した響きで、ソット・ヴォーチェもフルボイスも自由自在。ソロでもネローネ(マルゲリータ・ロトンディ)との二重唱でも、澄み切った声、しかも場面に応じて豊かな官能性を感じさせる声なのである。
ストーリーは、古代ローマの皇帝ネロ(ネローネ)の時代。ネローネは皇妃オッタヴィアがありながら、ポッペアに夢中。ポッペアにもオットーネという恋人(夫という解説もある)がいながら、皇妃の座をねらう。
いさめる哲学者セネカには皇帝が死罪!を申し付ける。オッタヴィアがオットーネを刺客としてポッペアを亡き者にしようと企むが愛の神の妨害にあって露見する。オッタヴィアは追放、ポッペアはめでたく?皇妃になるという話だ。
全然、勧善懲悪ではないところが、のちのオペラ・セリアとは大きく異るところだ。実際の歴史では、ネローネ(ネロ)は悪行の連続の果てに非業の死をとげる。オペラでは、二人のわがままな愛が成就して終わる。しかしその最後の愛の二重唱は甘美で陶然とさせるものだ。この日の演奏も完璧なものだった。ビブラートが最小限で澄み切ったハーモニーの心地よさ。 拍手が鳴りやまなかったのも当然と言えよう。
モンテヴェルディの音楽が、ひからびた音楽ではなく、実にみずみずしい、スイングする魅力をも備えていることを感じさせてくれる演奏だった。最後の二重唱は、伴奏の音型が舟唄のようになっており、指揮者によるアレンジが魅力を一層高めているのかと思う。
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