《ランスへの旅》
ロッシーニのオペラ《ランスへの旅》を観た(ペーザロ、ロッシーニオペラフェスティヴァル)。
この曲は、1984年にクラウディオ・アッバードによってここで復活上演され、今も語りぐさとなっている。今われわれが《ランスへの旅》を普段観ることができるのはこの時の上演および上演に向けての様々な尽力があってのことなのだ。
今年はロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルの前夜祭として8月9日にこの30年前の上演の録画を、町の中心の広場ピアッツァ・デル・ポポロで上演したそうだ。それをご覧になった方の話では、それを観るだけでもペーザロに来たかいがあったとのこと。今年亡くなったアッバードへのオマッジョである。
さて、それとは別にペーザロでは毎年、新人をあつめてアカデミアを開き、その卒業生に《ランスへの旅》を上演させている。ちなみにイタリア人はタイトルを(イル・ヴィアッジョ・ア・レイムス)つまりランスをイタリア語化して発音している。これは英語人がフィレンツェをフローレンスと言ったり、イタリア人がロンドンをロンドラと言ったりするのと同様で特に問題とすべきことではないのだが、ランスとだけ言ってもイタリア人には通じないことが多いので念のため。
今年の新人公演《ランスへの旅》はレベルが高いとの評判であった。これに日本人歌手が2人参加していることを紹介したい。一人はメリベア侯爵夫人という大きな役をもらった脇園彩(敬称略、以下同様)。もう一人はモデスティーナという小間使いの役柄の丸尾有香。他には、様々な外国人のまねをする愉快なアリアを歌うドン・プロフォンドの役を中国人のYunpeng Wang が歌い喝采を浴びていた。Wang はバリトンとのことで、通常はこの役はバスが歌うので珍しかった。
脇園彩は、メゾらしい深い声であり、高音も雑味なくきれいな声で、アジリタもきっちりまわる。会場でも高い評価を得ていたように思う。丸尾有香のモデスティーナは登場場面は多いのだが、単独で歌う場面は少なく声がどうということは判りにくいが、堂にいった演技であった。
指揮のイバン・ロペスーレイノーゾは、安全運転というか変わったことはやらないという感じで、リズムのきれも今ひとつであった。演出は毎年おなじみのもので10年以上変わっていないとのこと。ということは、これを観る人は演出に左右されることなく、新人歌手の力量を聴きにくる、観にくるわけで、新人発掘の場なのである。今年のフェスティヴァルのメインのプログラムでも《アルミーダ》のなかのテノールの一人ランドール・ビルズ(ゴッフレードとウバルドの1人2役)は2年前の《ランス》でベルフィオーレを歌っていて、今回抜擢されている。
脇園彩はスカラ座の研修所へ、Wang はニューヨークのメトの研修所へ行くことが決まっているようだ。今後の活躍を期待したい。
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