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2014年8月 5日 (火)

《偽の女庭師》

Ramiro (Rachel Frenkel), Arminda (Nicole Heaston) & Count Belfiore (Joel Prieto), La finta giardiniera, Photo: Tristram Kentonモーツァルト作曲《にせの女庭師》を観た(イギリス、グラインドボーン)。


オペラファンには有名なグラインドボーン音楽祭であるが、ロンドンのヴィクトリア駅(ここからグラインドボーンの最寄り駅ルイスへの電車は出る)のごく近所のホテルのコンシエルジュもタクシーの運転手もグラインドボーンもルイスも通じないので、オペラはやはり享受する階層が限定されている娯楽なのであり、イギリスは階級社会なんだということを再認識した。
モーツァルトが19歳になる直前に、ミュンヘンで初演されたこのオペラブッファは、モーツァルトの8番目のオペラだというから早熟さにあらためて驚く。
上演のまえにレクチャーがあったので聴いてみた。イギリスの大学の先生が解説をしてくれる。毎回あるわけではないが、今回は折よく聴くことができた。彼によれば、このオペラは初演はイタリア語台本なのだが、モーツァルトの生前にドイツ語版が作成され、そちらも何度か上演されている。長らく、第一幕はイタリア語版が紛失状態のため、ドイツ語版でしか上演ができなくなっていた。1970年になって第一幕のイタリア語版が発見され、イタリア語版が上演可能になった。このグラインドボーンでもイタリア語上演であった。
上演は、演奏も演出も素晴らしいもので、大いに楽しめた。ただ残念だったのは、女主人公サンドリーナが第二幕でおそらくは舞台装置につまづいて転び足を怪我をしてしまったことだ。そのため一時演奏が中断。しばらくしてアナウンスがあり、サンドリーナは舞台の端に椅子にすわって歌うことになった。万来の拍手で演奏再開は迎えられたが、そういう事情で第二幕の途中以降は、不完全な形でしか演出は理解できなかった。
グラインドボーンは周知の如くもともと貴族のカントリーハウスの中に建てられた私的な劇場で、近年建て替えられたのだがそれでも大都市の劇場と比較すればひとまわり小さい。それがモーツァルトのオペラブッファには心地よい空間となる。歌手も音量のために無理をすることが最小限ですむし、歌手の顔の表情やしぐさもよく見えるので、演出も小技が効くのだ。
このオペラのストーリーはかなり複雑だ。幕があがる前のストーリーがあって、サンドリーナ(実は侯爵令嬢だが、身をやつして今は市長の家で庭師をしている)は、ベルフィオーレ伯爵に嫉妬のあまり刺される。ベルフィオーレはサンドリーナを殺してしまったと思っている。この上演ではこの場面を黙劇で序曲の間に演じていた。ごく妥当な解決方法だと思う。
第一幕は市長がサンドリーナに惚れてしまい、サンドリーナは実はいまだにベルフィオーレを思っているので困惑している。セルペッタという小間使い(演技もコミカルでうまかった)がいて、市長をねらっており、市長がサンドリーナを口説くのを何かと邪魔をする。一方で、サンドリーナにつきしたがってきたナルドという使用人はセルペッタに惚れている。
市長の姪アルミンダは、新たな求婚者を紹介するが、これがベルフィオーレなのだ。サンドリーナは驚愕するし、ベルフィオーレもサンドリーナを見てまさかと思う。アルミンダには別にラミーロという求愛者がいて、ラミーロはアルミンダのことをあきらめきれない。
つまり、3組ほどのカップルが入り組んで複雑に交錯している。これがどうほどけて、サンドリーナとベルフィオーレおよびその他のカップルが結ばれるかというお話である。
今回の上演では、舞台装置も衣装も18世紀的な様子で、第一幕で市長がズボンを降ろすというおふざけはあったが、複雑なストーリーがうまく観客の頭のなかですんなりと整理される工夫がなされていたし、何よりユーモアのセンスがあって良かった。
指揮のロビン・ティッチャーティもきびきびとした演奏でもたつかず、歌手もそれぞれ人情の機微を軽やかに歌い、サンドリーナ歌手の怪我は本当にお気の毒であったが、全体としては、とても楽しめる演奏であった。ダ・ポンテ三部作以外にも、こういう傑作があったのだと知った貴重な機会に個人的には感謝したい。



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