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2014年8月 6日 (水)

《仮面舞踏会》のリブレットの改訂

前の記事でヴェルディの《仮面舞踏会》が検閲によってリブレットを改訂せざるをえなかったことと、原作とどう変わったかを記した。それは最初と最後であって、中間のプロセスがあるので記しておく(この項、John Rosselli のThe life of Verdi による)。

ストーリーがスウェーデン国王グスタフ3世暗殺という1792年に起こった史実に基づいているのはすでに述べた。グスタフ3世は絶対君主的な面と啓蒙専制君主的な面の両面をもっていたが、貴族階級の特権を剥奪したことで貴族階級からは疎まれていたことが暗殺事件の背景にある。
この事件をもとにフランス人のスクリーブが1833年にパリでオーベールのために『グスタフ3世』という台本を書いた。
国王暗殺(未遂)のテーマがタブーなのは、ヴェルディも《リゴレット》の時に経験ずみなので、彼とリブレッティスタのソンマは、ナポリの検閲当局の要請に応じることにした。
ここで注意されたいのは、ナポリの検閲の方針が途中で変わったということ。当初の要求は、王の代えて支配者としての公爵。政治の話や、成就した不倫は無し。ピストルもなし、というものだった。
ところがここで、現実に暗殺未遂事件が起こってしまったのだ。イタリアの貴族フェリーチェ・オルシーニらがパリのオペラ座前でナポレオン3世の馬車に爆弾を投じたのである。ナポレオン3世夫妻は軽傷ですんだが、死者も複数でた。オルシーニはナポレオン3世がイタリア統一問題に積極的に関与することを訴えるために事をおこしたのだった。
この事件をうけてナポリの検閲はより厳しくなる。支配者はだめ、友人の妻に恋をしてはだめ、中世以降の時代ではだめ(当初は17世紀の想定だった)、暗殺者を選ぶくじびきはだめ、舞踏会はだめ、仮面もだめ、舞台上での殺人もだめ。これでは《仮面舞踏会》のストーリーとは全く異なったものになるのは明らかだろう。ナポリの劇場側はフィレンツェの中世の共和制の時代を舞台にすることを申し出る。
が、ヴェルディは《リゴレット》の上演の時も、ナポリはヴェルディに断わりなく別作品と思えるような改ざんをほどこしたことを思い出す。ヴェルディは作品を引き上げ、翌年にローマで上演することを考える。
ナポリの劇場側は怒りヴェルディを訴えた。ヴェルディの反論。ソンマの元のリブレット884行に対し、劇場側が提示した改訂リブレットは297行が変更されている。カットもあるし、あらたな付け加えもある。
 元のリブレットと改訂リブレット(劇場側が検閲要求にあわせたもの)を比較すると、
 タイトルは? 違う
 リブレット作者は? 違う
 時代設定は? 違う
 場所は? 違う
 登場人物は? 違う
 状況は? 違う
 くじびきは? 違う。
 舞踏会は? 違う。
これだけ変更されてしまったら別作品だから芸術を尊重するマエストロ(ヴェルディ)としては応じられないというわけだ。
 こうしてこの後、ローマでボストン総督リッカルド、17世紀というところで折り合いをつけるのである。

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