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2014年3月 4日 (火)

レオナルド・ダ・ヴィンチ『絵画の書』

レオナルド・ダ・ヴィンチ『絵画の書』(斎藤泰弘訳、岩波書店)を読んでいる。

従来『絵画論』と呼ばれていたものだが、初の全訳である。ダ・ヴィンチが書いた膨大な草稿から絵画に関する部分を弟子のフランチェスコ・メルツィが抜き出してまとめたもの。訳者の解説によると、全体としては、むろん、ダ・ヴィンチが書いたのだが、細かいところになると、メルツィの写し間違いや、メルツィの筆が加わった部分がある。それがどこまで、レオナルドによるもので、どこからがメルツィの介入かを判断するのに苦労したとのこと。
そもそもこの本がメルツィによってまとめられてから(1600年代前半)も、長らく出版はされず、ウルビーノのデッラ・ローヴェレ家の当主が所蔵し、そこからヴァティカンへと所有者がうつり、ようやく1817年に出版される(もっとも不完全な版は1651年に出版されている)。
内容は8部に別れていて、
第一部 詩と絵画について
第二部 画家の教則について
第三部 人のさまざまな情動と運動、および四肢の比例について
第四部 衣装について。人物像を優美に装わせる方法について。衣装と布地の
          種類について
第五部 光と影について
第六部 樹木と植物について
第七部 雲について
第八部 地平線について
となっている。全体は944の章(断片)からなっていて、前後の章は関連が深いものがならんでいる。たとえば、第三部の289章は、「一瞥しただけで人の横顔の肖像を描く方法について」となっていて、こういう場合には横顔の4つの部分に注目せよという。4つとは鼻、口、あご、そして額である。
 
さらに鼻に関して記憶すべきことを細部にわたって述べている。鼻には3つの種類があって、まっすぐな鼻、凹型の鼻、凸型の鼻がある。まっすぐな鼻のなかに、長い鼻、短い鼻、先端の高い鼻、低い鼻というふうに下位区分がある。凹型には3つ。上部がへこんでいるか、中央がへこんでいるか、かぶがへこんでいるか。さらには、こういったものの組み合わさった型、たとえば上下が凹型で中が隆起といったものがあるわけだ。
こういった細かい区分は図によって示されている(すべての章に図があるわけではないが、ところどころに手書きの図が掲載されている)。
第5部では、たとえば683章に「物体の照らされた部分と影の部分の間にある、中間的な影について」という章があるが、その前後には光と影についてのさまざまな角度からの考察がならんでいる。
あるいはまた、距離によってものの見え方がどう変わるかということも詳しく論じられている。
絵画における『パンセ』といった趣を感じる。管理人のように絵画に関するまったくの素人が気のおもむくままにあちこちのぞいても面白い。つまり、レオナルドって、絵を描くときに(あるいは描く前提として)こんなことを考えていたのか、という感慨と、当然ながら、きわめて具体的な事柄を具体的に理路整然と語っていることに驚く。いわゆる印象論ではなく、話が具体的なのだ。専門家にとっての意義はいうまでもないと推測するが、それはまたしかるべき人の書評に期待したい。

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