映画《椿姫ができるまで》
2011年のエクサン・プロヴァンス音楽祭(フランス)でのオペラ《椿姫》の公演の準備の様子をドキュメンタリー映画として撮ったもので、オペラが好きな人には関心が持てる映画かと思う。
主役はソプラノ歌手のナタリー・デセイで、彼女と演出家ジャン・フランソワ・シヴァディエのやり取りが中心となる。デセイは、現代的な女性であり、オペラの主人公ヴィオレッタに感情移入しにくい面があるように見受けられる。そこを演出家シヴァディエがあの手、この手を使って説明し、場面、場面でヴィオレッタにならせようとする。
時には、デセイは納得が行かないという表情だったりするところも面白い。役作りの面白さ、あるいは役作りにおいて、歌手と演出家の力関係なり化学反応がどういうものであるのかという一例が見られる。
また、こういう練習の時には、本番と違って1オクターブ下げて歌っていたり、あるいは音程はそのままでも声をはりあげないで歌っている。ソプラノだけでなく、アルフレードの父(パードレ・ジェルモン)を歌うルドヴィック・デジエ(バリトン歌手)ですらそうだった。
アルフレードはチャールズ・カステルノーヴォで彼だけが実年齢が若い。最近のオペラでは歌手は役者としての演技が高度にもとめられるようになっていて、最後にヴィオレッタが倒れる場面まで、その倒れ方を何度も練習しているだけでなく、倒れ方の指導をしている指導者がいることに驚いた。
途中でコレペトワール(オーケストラが伴奏する前に、ピアノ伴奏で練習しているのだが、そのピアノ奏者)の女性が、音楽と言葉の関係を説明してくれる場面がある。イタリア人ということもあり、彼女の説明は実にオーソドックスであり、とりわけ言葉(歌詞)とそこに付された音楽の表情についての解説が実に説得力に富んでいる。ピアノを弾きながらの説明なので、どの場面のことかもよく判る。ヴェルディの作曲家としての素晴らしさが実感できる瞬間である。
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