《ナブッコ》
ヴェルディ作曲のオペラ《ナブッコ》を観た(ザルツブルク、祝祭大劇場)。
観たというよりは、聴いたと言ったほうが良いかもしれない。コンサート形式での演奏であったからだ。舞台装置はなく、歌手も男はタキシード、女はドレスを着ていて、ナブッコの時代を思わせる衣装、装置は何もない。
壇上には、ローマ歌劇場の管弦楽団と、その奥に同歌劇場の合唱団、手前に独唱の歌手たちが並んでいる。
独唱はナブッコがルチッチ、アビガイーレが急遽交代で、アンナ・ピロッツィ。この人はナポリの人であるが、体格もよく声量もあった。直前の交代であったため、彼女だけが譜面をみながらの歌唱であった。フェネーナはガナッシ。ガナッシは声量はないが発声はきれいで、様式感がきちんとでる歌唱。イスマエーレがフランチェスコ・メーリ。ザッカリアがベロセルスキー。
冒頭でベロセルスキーが声を張り上げたせいか、メーリも負けじと張り上げ、微妙な表情を練り上げるというよりは、壮大な声の饗宴といった感じだった。オケや合唱も一部をのぞいては、かなり鳴らしまくってシンバルなどは、普段のオケピットから聞こえて来る音と異なり舞台から直接なので、音量が大きすぎるくらいの派手さだった。
ムーティもローマ歌劇場管弦楽団を要所要所でおさえる感じの指揮で、たとえばパッパーノがドン・カルロでウィーン・フィルに対してみせた精妙なコントロールとは異なる感じだった。昔のスカラ座と演じた《ナブッコ》とも当然異なる大柄な感じのナブッコであるが、ここが肝心の場所となると、ムーティの身体が前傾したり、激しく揺れ動くのが興味深かった。
また、歌手は自分の出番以外では、椅子にこしかけて待っているわけだが、序曲や自分の出番が来るまで相当緊張しているのがわかった(僕の席は前から3列目の向かって左はじ)。通常のオペラであれば、衣装をつけているし、出番でなければ舞台には出ていないから、歌手にとっても少し勝手が違って来るだろう。
観ているほうも、ザッカリアがフェネーナを捕まえてこの女(ナブッコの娘)を殺すぞ、と言っている時に、演奏会形式のため、ザッカリアはフェネーナと指揮者をはさんで反対側におり、腕すらつかんでないし、それをとめに入るイスマエーレも最初からずっとザッカリアの脇にいて、割って入るといった動きもない。だから、字幕(例によってドイツ語と英語)によって舞台進行の内容を確認はできるのだが、感情移入はしにくく、いわば声という楽器を用いた協奏曲のような感じと、通常のオペラの中間のような具合であった。
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