《アルジェのイタリア女》
ロッシーニのオペラ《アルジェのイタリア女》を観た(ペーザロ、ロッシーニ劇場)。
演出はダヴィデ・リヴェルモ−ル(Livermore はイギリス系イタリア人)。彼は昨年は、ここで
《バビロニアのチーロ》を、無声映画の世界に擬して演出していた。
今回も映像的な要素がたっぷりとある演出であり、オペラ・ブッファであるせいか、映像の中にかなり漫画的な要素を入れこんでいる。たとえば、序曲の間に登場人物リンドーロ(石倚潔)が出て来ると、イザベッラ(アンナ・ゴリャチョヴァ)への思いを寄せているのだが、リンドーロの後ろの画面に吹き出しがでて、その吹き出しの中にイラストのイザベッラが出てくると言った具合。
古女房をイタリア人の召使いリンドーロに押しつけて、あらたにイタリア女性を妻にしようとたくらむ横暴な君主ムスタファ(アレックス・エスポジト)は、封建領主というよりは、現代の石油王として描かれる。彼がバイアグラを愛用している場面からもそのことは判る。
原作も面白おかしい話であるが、誇張もまじえて現代化して、このオペラをはじめて見る人にも予備知識なしに楽しんでもらおうというサービス精神が横溢した舞台であった。
さらには、音楽に合わせたジェスチャーやダンスが多く、歌手たちは、歌って踊れることを求められており、大変要求度の高い演出であったと思うが、エスポジトをはじめとする歌手たちは元気はつらつとその要求に応えていた。
大活躍だったのは、ムスタファ役のエスポジトで歌に踊りに芸達者なところを見せた。タイトルロールのアンナ・ゴリャチョヴァは、スタイルの良さを遺憾なく発揮し、ヴォリュームを誇る声ではないが、メゾソプラノの魅惑的な響きを聞かせていた。リンドーロの石(YIJIE SHI)は、澄んだ声のテノールで、1昨年は《エジプトのモーゼ》に出演していたが、さらに芸に磨きがかかり、アジリタ(早いパッセージ)の部分でも、明晰な発音を聞かせており、会場から惜しみない拍手を受けていた。彼は、中国人であるが、日本の東邦音大で学び卒業し、ヨーロッパでさらに研鑽をつみ、ロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルをきっかけにヨーロッパ各地の歌劇場でキャリアを積んでいる。
指揮者はスペイン人のホセ・ラモン・エンシナール。テンポが劇的に変わる。アッチェレランドで徐々に早くするのではなく、瞬間的に変えるので、ところどころ合唱団とうまく合わないところもあったが、おおむねきびきびとした演奏であった。
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