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2013年5月23日 (木)

《ナブッコ》

新演出で大胆な読み替え! ヴェルディ生誕200周年に新国立劇場が贈るオペラ「ナブッコ」が開幕

新国立劇場(東京・初台)でヴェルディの《ナブッコ》を観た。
合唱曲「行け、想いよ、黄金の翼にのって」が有名だが、この歌詞(つまり、オペラの台本)を書いたテミストークレ・ソレーラは、なかなか数奇な生涯を送った人物である。フェッラーラに生まれたのだが、オペラの台本(リブレット)を書くだけでなく、作曲もし、スペインにわたっては、劇場支配人であり、おそらくはイザベラ女王の愛人でもあった。密使としても活動している。
さて、《ナブッコ》であるが、グレアム・ヴィックの演出。この人の名前、Graham をグラハムと読みたくなる気持ちはよく判るが、グレアムである。グレアム・グリーンという小説家(映画『第三の男』、小説『情事の終わり』など)も同様。英語のスペリングと発音の関係は通常の単語でも不規則なものが多いが、固有名詞は一層厄介ではあるが、念のため。
ヴィックは、この旧約聖書の世界(ナブッコはネブカドネザル)、イスラエルの民のバビロン捕囚の話を、現代のショッピングモールに移動させている。彼は一昨年のペーザロでのロッシーニ・オペラ・フェスティバルでも、ロッシーニのオペラ《エジプトのモーゼ》という旧約聖書の世界の主人公モーゼを、ビン・ラーデンのような恰好をさせており、同一ではないが、似たような方向性の作品の読み替えと言えよう。
オペラの最後には、植樹の場面があり(そのような演出は僕ははじめて見た)それが失われた信仰の復活を象徴している。
指揮パオロ・カリニャーニはめりはりのある音楽づくり。東京フィルハーモニーの演奏能力は極めて高く、新国立劇場合唱団の響きも陶然とさせるものだった。無論、ナブッコはわき上がる怒り、踊り狂うようなリズムの激しさがあるのだが、それがこちらを音の渦に巻き込む。それが快感でもあるのだ。
ナブッコはルーチョ・ガッロ。アビガイーレはマリアンネ・コルネッティ(大きな身体をいかした強い声だった)。ザッカリーアのコンスタンティン・ゴルニーは立派な声であった。さらに、イズマエーレの樋口達哉、フェネーナの谷口睦美も、海外勢に見劣り、聞きおとりがしていなかった。容姿、体格、歌ともに堂々たるものであった。
最初は率直なところ妙な演出だと思ったが、徐々に納得がいった。何と言っても、若き日ヴェルディのエネルギーに充ちた音楽をオケと合唱が熱く表現していたのが説得力を獲得していた。

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