指揮者ダニエーレ・ルスティオーニ
指揮者ダニエーレ・ルスティオーニの振るオペラ《ブルスキーノ氏》を再び観た(ペーザロ・ロッシーニ劇場)。
《ブルスキーノ氏》は一幕もののファルサ(笑劇)である。後見人ガウデンツィオがソフィアという若い娘をブルスキーノ氏の息子に嫁がせたいと思っているが、ソフィアにはフロルヴィッレという好きな人がいて、二人は一計を案じて一緒になるという物語。
それにフロルヴィッレが、ブルスキーノ氏の息子になりすます、という要素が絡んでいる。
テーマパークで上演している劇という劇中劇の仕掛けは、賛否両論だった。
しかしここではルスティオーニの指揮について記しておきたい.彼の指揮は文句なく素晴らしい。こんなに生き生きとしたロッシーニを体験したのは、僕は、クラウディオ・アッバードの来日公演の《ランスへの旅》以来である。ついで、藤原を振ったアッレマンディの指揮。
ルスティオーニは、彼の指揮する姿だけで、ロッシーニの音楽が感じられるリズミカルな身体の動きを見せる。弾みながら左右にゆれ、フレーズを止める時はパッととまる。不思議なもので、ピチカート一つでも、そのコンマ何秒かで、曲がだれたり、しまったり、弾んできたりするわけで、彼の指揮で納得がいかない箇所は一つもないのだ。
アッチェレランド(だんだん速度をあげる)もついに若手でこんなにうまくやる人が出てきたかと感動した。CDでは、1950年代、60年代のものは縦方向にはそろわずとも、アッチェレランド、クレッシェンドは良かったのである。ルスティオーニの指揮は、縦もそろえながら、ギアチェンジもうまい。
アリアとカバレッタ、ストレッタのテンポの切り替え、二重唱で互いにせりながらリズムをつめて盛り上げていくところなどまことにエクサイティングである。重唱になると、合わせることで精一杯で、フレージングの切れが悪くなったり、よっこいしょ、というリズムになる指揮者もいるが、彼はそんな鈍重さとはまったく無縁。
斜め横から見ていたが、若手が歌うときは口を大きくあけてプロンプターかと思うほど、歌詞がわかるようにそして歌いだしのタイミングを判りやすく振っている。強引なのではなく、協力的な関係のもとに、充実した音楽、スピード感あふれる音楽を展開している。彼は29歳である。
ROF がくれるパンフレットによると、すでにヴェネツィアのフェニーチェ、ボローニャ市立歌劇場、スカラ座、イギリスのWelsh National Opera, ロイヤル・オペラ・ハウスで振っている。
ルスティオーニ、バッティストーニと20代の天才的指揮者を続けて聞けたのは、嬉しい。30代の俊英マリオッティもいる。ユーロ危機、国債の問題等お金に関しては、オペラには逆風が吹き捲くっている。しかし彼らがいれば、イタリア・オペラは生き延びるとの思いを強くした。
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