《ロベルト・デヴェリュー》
ドニゼッティのオペラ《ロベルト・デヴェリュー》を観た(東京文化会館)。
なんといってもソプラノ歌手グルベローヴァの活躍が見物、聞き物の出し物である。ストーリーは、エリザベス女王(1533ー1603、オペラ中ではイタリア風にエリザベッタとなる)とその愛人ロベルト・デヴェリュー(エセックス伯)の愛憎入り交じった物語。
ロベルトはサラという女性と恋仲だったのだが、ロベルトがアイルランドに遠征中にノッテインガム公と結婚させられてしまう。しかし二人は今でも互いに想いを寄せている、というとこからおこる悲劇である。
しかもノッティンガム公はロベルトの友人なので、二人の間を知ると激怒する。ここらは、ヴェルディの《仮面舞踏会》の設定とよく似ている(もちろん、《ロベルト・デヴェリュー》が先に存在していたわけだが)。
グルベローヴァは、65歳という年齢をものともせず輝かしい声であり、コロラトゥーラもよく転がり、満場の喝采をさらっていた。欲を言えば、指揮者ハイダーが、長いアリアではもう少しテンポの緩急をつけて曲の表情を引き締めてほしかった。
サラはソニア・ガナッシ。なかなかの熱演。演出で、夫が彼女を緊縛したり目隠ししたりするのは意味不明であったし、さらにロベルトがズボンを降ろされるのはあきれるほかなかった。
そもそもエリザベスは16世紀後半に生きているわけだが、舞台上では男女ともにスーツ姿で、椅子も現代のソファーで感興がそがれることはなはだしい。演出に支出が限られているのだろうが、舞台を現代にうつすしか方策はないのだろうか。今回の上演に限らず、オペラ演出で安易に、時代を現代化するのはアイデアの貧困である。
オケは立派なのだが、ノリという点では、ドイツのオケというのはイタリアのオケとは違った味わいであることを確認した。あたりが柔らかく、リズムが少しねばるのである。合唱も同じで、ソフトな発声と響きであるのだが、そのため言葉がとても聞き取りにくかった。
全体としては、グルベローヴァの歌唱法もあり、ロマン派よりのドニゼッティ、やや重めのドニゼッティという味わいであった。ドニゼッティにはロッシーニ的要素とロマン派的要素の双方があるため様式的にはどちらの演奏も可能であろう。そういう意味で興味深い演奏ではあった。
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