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2010年11月 8日 (月)

ポッリーニ・リサイタル(バッハ)

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マウリツィオ・ポッリーニのリサイタルを聴いた(11月3日、サントリーホール)。

曲目は、バッハの平均律クラヴィア曲集第一巻全曲である。第一巻は、24の前奏曲とフーガからなる。前奏曲は、どちらかというと分散和音をもとに組み合わせて展開していったような曲が多い。フーガは、その名の通り、主題を3声や4声で追いかけていく(曲を文字通りとれば逃げていくわけだが)対位法を駆使した曲である。

ポッリーニはこの曲をCD録音しており、そのライナー・ノーツはいつものようにパオロ・ペタッツィによるものだが、シューマンの言葉を引用し、バッハの平均律は、毎日のパンとすべき音楽だと説いている。

たしかに、バッハのこの曲集は、聞き慣れないうちは、どれもこれも同じような曲がただ調性が変わってずらずらと並んでいるように聞こえるかもしれない。しかし、パンとはいいえて妙である。日本人で言えば米か。パンや米に派手な味はついていないが、毎日食べても食べ飽きないし、何とでも合う。

ポッリーニの演奏は、前半は多少のあやうさもあり、バッハの多声音楽の演奏のむつかしさを実感させられた。若い時のポッリーニは、楽曲が演奏困難なのか容易なのか、聞いているものには判らなくなってしまうほどやすやすと弾いているように聞こえた。今回は、曲が難曲であることを実感させてくれる普通のピアニストとしての演奏となった。

12の前奏曲とフーガを弾き終えて、休憩。

休憩後は、前半とは異なり、楽譜を携え登場。譜めくりの男性も脇にすわった。以前に、現代音楽の演奏ではポッリーニが楽譜を見ながら弾くことはあったが、古典的な曲でははじめての経験だ。しかし、楽譜を見ながらの演奏は落ち着きを取り戻し、集中力を増し、良かったと思う。僕の場合、充実した音楽が聴きたいのであり、演奏者が暗譜かどうかは問題ではない。

曲としては、最終曲24曲目の前奏曲とフーガの演奏が圧巻であった。演奏者も、そこで思いを一層集中するような姿勢というか一瞬のしぐさがあった。フーガは、CDと較べると、少しテンポが速く、しっかりとアクセントをつけて、一歩、一歩、噛みしめるような演奏だったのが印象的であった。CDの演奏は、なぐさめるような響きに聞こえるが、今回の演奏は、ここまでの24曲の歩みを確かめつつ、対位法が宇宙の拡がりを感じさせるものだった。

24番は前奏曲も、この世にあることの孤独をセンチメンタルでなく感じる曲だが、フーガはさらに宇宙的なのである。CDでは暖かみを感じさせる音色で弾かれているのだが、演奏会では、突きぬける音とフレーズごとにつけられたアクセントから、評者は満天の星空を感じた。前奏曲もフーガも音数は多くなく、テンポも速くはないが、深く、そして圧倒的な高さを感じる曲である。実演は、CDにない激しいパトスを生で感じさせるものであった。同じ曲の、同じ演奏家による演奏でも表情がこれほどに違うことに、ライブ演奏の醍醐味を堪能した一夜であった。

このプログラムではアンコールなしは、むしろ当然と思った。

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コメント

もう何回めでしょう、少しずつ演奏を解きほぐしながら拝見しています。
ポッリー二のバッハ平均律は、あの日御文拝見してから聴きつづけています。
演奏会たのしみにしていましたのに!(お友だちは会場に駆けつけました。)
また御文拝見し、また聴きます。また良き音楽良き演奏おおしえください。
 ポッリーニの風貌が素晴らしくなりました。

投稿: lupina | 2010年11月21日 (日) 23時15分

lupina さん

ポッリーニの平均律はおっしゃるように、何度も聴きかえすのにふさわしい演奏であり、何よりそれにふさわしい曲なのだと思います。

ポッリーニの風貌は、実際のコンサートではもう少しお疲れのように見えます。背丈は決して大柄ではないのですが、不思議な風格を感じます。

投稿: panterino | 2010年11月23日 (火) 22時04分

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