《イル・ディーヴォ》
《イル・ディーヴォ》(パオロ・ソレンティーノ監督)を観た(有楽町・朝日ホール)。
見応えのあるフィルムであった。映像も迫力があるし、音の使い方にも一ひねりある。
ただし、これが日本の観客に受け入れられるためには、少し解説が必要であろう。
戦後7度も首相をつとめたジュリオ・アンドレオッティが主人公なので、イタリアでは最も有名な政治家であるが、日本では必ずしもその背景が既知のものであるとは言い難いからだ。
アンドレオッティはDC(キリスト教民主党)の政治家であり、DCは名前からも判る通りヴァティカンとの関係が密であった。(1990年代の大々的な汚職摘発により事実上解党した)。
アンドレオッティは、DCの中でも特にヴァティカンとの密接な関係が知られている。それは彼がローマ出身ということとも無縁ではないだろう。
映画の中で言及されるサンタンブロージョ銀行およびその頭取であったカルビがロンドンの橋で首吊りの死体で発見される事件(当初は自殺とされたが、後、裁判でも他殺であることが確認される)は、サンタンブロージョ銀行がヴァティカン御用達の銀行であり、ヴァティカンの幹部の事件への関与、またマネーロンダリングにマフィアが関わっていた疑いがあり、スキャンダラスな事件であった。
また、DCのアルド・モーロ元首相が極左集団「赤い旅団」に誘拐され、殺害された事件も、実際には、アメリカのCIAが関わっていたのではないかなどの様々な憶測があり、実態が解明されたとは言えない。誘拐事件の際に、モーロからの度重なる要請を断り、「赤い旅団」との交渉に応じなかったアンドレオッティの苦悩が映画では一つのポイントになっている。
さらに言えば、アンドレオッティという政治家は、米ソの冷戦体制に最もあるいは過剰に適応した政治家だったと言えよう。イタリアは、西側で最大の共産党を抱えていた国であったため、イデオロギー的に社会主義とどう対峙するかが政治家にとってまず問われる問題であったのだ。アンドレオッティは、社会主義、共産主義との妥協はあってはならないという立場の政治家で、そのためには、マフィアと手を組むこともいとわなかった、と考えられる。マフィアとの関係は、濃いグレーゾーンであって、また、彼の長い政治生活の間に変化があったと考えられる。
この映画はドキュメンタリーではないので、一つ一つの事件を丁寧に解説はしない。こうした政治家の生活をどう映画として見応えにするものができるのかということがソレンティーノにとっての挑戦であったかと思うが、彼はそれに成功していると思う。
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コメント
TBよろしくお願いいたします。
>アンドレオッティは、DCの中でも特にヴァティカンとの密接な関係が知られている。それは彼がローマ出身ということとも無縁ではないだろう。
同時に「P2」とも密接な関係があった?複雑怪奇ですね。
この映画の舞台となった時代は、tangentopoliとLega Nordで持ちきりだったことを思い出しました。
イタリア共産党もキリスト教民主党も消滅し、メディア王が政治の中心に躍り出た現在のイタリアに、どう傾れ込んでいったのか辿ってみたいです。
投稿: なつ | 2009年5月 6日 (水) 00時22分
名前忘れたけど、アンドレオッティ役の俳優さん、すばらしかったですね。
顔は本人と似ても似つかないのに、雰囲気、後姿、すごくよく研究してたと思う。
同じ頃に観た「ゴモッラ」にも出てました。
有楽町でやってたなんて、なんか嬉しいです。
投稿: ぴちょ | 2009年5月 6日 (水) 18時25分
なつさん
そうですね。P2(フリーメーソンのロッジャ)にも、深い関わりがあったわけです。アンブロージョ銀行をめぐる一連の事件とP2はかなり深く関わりがあるとされています。
これに関しては、映画『法王の銀行家ロベルト・カルヴィ暗殺事件』が、参考になると思います。
冷戦終結後の価値観混乱、権力の空白期をメディア王は、実に巧妙にとらえたのですね。
投稿: panterino | 2009年5月 6日 (水) 19時59分
ぴちょさん
主役の俳優はトニ・セルヴィッロです。非常に多才で、どんな役でもかなしますね。『よせよせ、ジョニー』ではいんちきなミュージシャン、『ゴモラ』ではマフィア(カモッラ)、『湖のほとりで』では刑事を演じていました。
アンドレオッティは、無表情の表情、ポーカーフェイスで、しかも権力の権化なわけですから、独特の演技が必要とされたと思いますが、単に物真似でなく、独自の雰囲気が伝わってくる演技でしたね。ローマの町を散歩するにも、ものものしい護衛がついていて、しかもアンドレオッティの非難の落書きを見つめて立ち止まる場面など、脚本の場面設定も適切だったと思います。
投稿: panterino | 2009年5月 6日 (水) 20時10分