《湖のほとりで》
映画《湖のほとりで》を観た(京橋・映画美学校第二試写室にて)。非常にめずらしく、ありがたいことに試写会の案内をいただき観る機会を得た。
原題はLa ragazza del lago で直訳すれば「湖の若い女」とでもなろうか。ミステリー仕立てなので、ストーリーを詳しく紹介することは避けるが、若い女性の死体が湖のほとりで発見され、その犯人捜しが一つの軸となっている。
しかし、同時に、これはイタリアの北部の小さな村で起こった事件なので、トニ・セルヴィッロ演じる刑事サンツィオが捜査を進めるうちに、村のなかの各家の人間関係、親子関係、夫婦関係のほころびが白日のもとにさらされていく。一見何事も起こらない平和そのものの湖のほとりにある村にも、当然ながら、人間の欲望、暗い情念がうずまいているのだ。
それが、捜査とともに、静かに明らかになっていく。カメラワークも基本的に穏やかで、それだけに時たま見せる技巧的なショットが印象に残るのだが、わざとらしくはなく、むしろ、それが心に染みるのである。それはここで用いられている音楽にも言えることで、殊更に、観客の感情をあおりたてる音楽はもちいられない。
基本的に静かなのだが、実はよく練られた語り口なので、退屈することはまったくない。ミステリーではあるが、暴力的シーンは無い。むしろ、観終わると、監督は、村の中の人間模様を描きたかったのだろうと思えてくる。また、ここにはさまざまな形での障碍をもった登場人物が出てくる。心の具合が悪い者もいるし、身体の具合が悪いものもいる。その微妙な健常者からの「ずれ」が、この映画の味わいには重要である。この映画は、障害者が気の毒とか、障碍があるのに健気に生きているといった方向性の話ではない。そうではなくて、われわれが現代社会にいだいているいわく言い難い違和感が、この様々な形の障碍者を通じて、絶妙な形で表出されていると思う。
トニ・セルヴィッロは、実に達者な役者で、まったく異なった役柄を実に自然にこなしているように見える。『パードレ・パドローネ』のオメロ・アントヌッティがさりげなく脇役で出ているし、ヴァレリア・ゴリーノ(数年前のイタリア映画祭で、A casa nostra という映画で検察官を熱演していた)が影のある母親役で出ているなど、イタリア映画としては豪華な配役なのだが、その使い方が実にさりげないので、逆にストーリーに厚みが出ている。そういう意味で贅沢な使い方をしていると思う。
この映画ドナテッロ賞に史上最高の10部門を独占したというが、じっくり観ると納得がいく。決して騒々しくなく、徐々に心に沁みてくる映画である。
(7月、銀座テアトルシネマ他で公開とのことである)。
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コメント
しばらく、アクセスしていませんでした。
ヴァレリア・ゴリーニは映画に出てたのですね。若いころはアメリカ映画界で仕事をしていましたね。拠点を祖国に戻したということなのでしょうか。美人女優で、注目していたので、嬉しいです。
投稿: ローマは | 2009年5月 5日 (火) 20時44分
ローマはさん
僕は、逆にアメリカ映画に出ていたころを知りませんでした。イタリア映画では、『フェラーラ物語』(1987)に出ているのですが、昔観たきりで、どこでどんな役だったか、もう一度観ないと思い出せません。
最近は、イタリア映画によく出ていますね。今年のイタリア映画祭2009の中でも『よせよせジョニー』に出演しています。
投稿: panterino | 2009年5月 6日 (水) 19時48分
先回、私の名前が途中で切れていました。
さて、ゴリーノですが、あの「レインマン」で新人時代のトム・クルーズのガール・フレンド役でした。それから私の印象に残っているのは、「イヤー・オブ・ザ・ガン」という、モロ事件を題材にしたアメリカ映画です。
投稿: ローマは永遠 | 2009年5月 7日 (木) 18時41分
ローマは永遠さん
なるほど。アメリカ映画にも、モロ事件を扱ったものがあったのですね。ありがとうございます。機会があったら、見てみます。
投稿: panterino | 2009年5月 8日 (金) 00時45分