《マホメット2世》
ロッシーニのオペラ《マホメット2世》を観た(大津・びわ湖ホール)。
ロッシーニに関しては、個人的には、これまでオペラ・セリアを実演では聴いたことがなかったのだが、実に豊穣な世界があると「発見」した。
《マホメット2世》には、様々なヴァージョンがあるらしく、DVD(フェニーチェ劇場、クラウディオ・シモーネ指揮)のものとは、音楽の細部が異なっていた。それどころか、ストーリの結末まで異なっており、大いに驚いた。
今回の上演の指揮は、アルベルト・ゼッダ。クラウディオ・シモーネが、アッチェレランドをあまりかけず、音量のクレッシェンドだけで盛り上げていくのに対し、ゼッダはより自然体であった。シモーネの楷書体に対するゼッダの行書体とでも言おうか。
ストーリーは、マホメット2世がヴェネツィアのギリシア植民地ネグロポンテを攻略しようとしているという状況。ネグロポンテの長官エリッソはマホメット2世と戦うことを決意する。しかしエリッソの娘アンナは、以前に正体を隠した(ウベルトと名乗った)マホメット2世と恋仲になっていた。
ストーリーが展開するにつれて、アンナは父、祖国とウベルト(実はマホメット2世)との間で、身を引き裂かれる思いにさいなまれる。
マホメット2世も、エリッソが恋するアンナの父としり、助命する。
ヴェネツィア版(シモーネ指揮のDVD)では、ヴェネツィアの勝利で終わる。しかし、今回の上演では、アンナは父のきめた婚約者カルボと結婚するが、それがマホメットに発覚した時点で、自害する。
それまで、ぼんやりとDVDを見ていただけだったので、衝撃の結末であった。しかし、こちらの方が劇としてのカタルシスがある。
ミヒャエル・ハンペの演出は、良い意味で説明的で、判りやすかった。イスラム側には、新月のマークがついていたり、ヴェネツィア軍が破れたことを示すのに、十字架を引き倒したりするのである。このオペラがきわめて上演が稀なことを考慮すればこの演出方針は、納得がいくし適切であったと思う。
歌手について言えば、マホメット2世(バス)のロレンツォ・レガッツォは、声質は良いのだが、この日は、調子が良くなかったようで、ここ一番で声量に欠けるところがあった。DVDでもレガッツォが歌っているが、そちらのほうが彼の真骨頂を伝えているのではないかと想像する。
父エリッソ(テノール)のフランチェスコ・メーリは、見事な出来であった。アンナ(ソプラノ)のマリーナ・レベカやカルボ(メゾ・ソプラノ)のアーダー・アレヴィにも不満はない。
ロッシーニは、オペラ・セリアも素晴らしいのだということを身をもって実感した上演であった。
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