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2008年7月 4日 (金)

ポッリーニ:モーツァルトのピアノ協奏曲12番&24番

Pollini_73

ポッリーニの新譜、モーツァルトのピアノ協奏曲12番&24番を聴いた(DG4777167)。

オーケストラはヴィーン・フィルで、指揮とピアノがマウリツィオ・ポッリーニ、ライヴ録音である。

モーツァルトのピアノ協奏曲は12番は比較的演奏されることが珍しく、24番ハ短調は良く演奏される。ちなみにハ短調はイタリア語ではド・ミノーレ、do minore である。日本語では音名が三種類あり、ドの音がCとなったりハとなったりする、イタリア式に全部ドレミファで言ってしまえば、ハ短調はド短調となる。わかりやすい。

ポッリーニのモーツァルトは、一言で言えば、感情過多に陥ることのないモーツァルトである。特に24番ハ短調では、ロマンティックな要素が多分にあるので、オーケストラにしても、ピアノにしても、細部により一層の感情を込めた演奏もあるし、それはそれで魅力的なモーツァルトになりうることは言うまでもない。

しかし、ポッリーニのモーツァルトの魅力は少し違うところにある。まず、選曲であるが、CDの解説にパオロ・ペタッツィが記しているように、この二つのコンチェルトは、1782年から1786年というモーツァルトが協奏曲づくりに集中した時期の最初と最後にあたる。モーツァルト26歳から30歳の時期である。

モーツァルトの早熟さについては、その神童ぶりのエピソードには事欠かないわけだが、それ以上に驚くのは、晩年にかけての成熟ぶり、曲想の変化が多様になり、また、そこここに哀愁を帯びた音色が出現することである。二つの協奏曲を聞きくらべれば、4年間の間にこうも違う曲を書くようになったのかとあらためて驚かずにはいられない。モーツァルトは、早熟の天才であり、それを否定する気はみじんもないが、一方で、天才に生まれついて何の工夫も努力もなかったのかというとそうではなく、たとえば交響曲を聴くと、第25番や第29番のように若い時期の傑作もあるのだが、30番台、特に35番ハフナーから後は、それ以前には見られない堂々として、なおかつ深い感情表現、音楽的構築性が見られる。真の天才は、自分を繰り返すことに満足しないのである。あるいは、自分の作風をどんどん意識的に変化させていくところに、モーツァルトのロマン派性の先取りが見えるかもしれない。

ポッリーニは、リサイタルでもそうであるが、プログラムの構築が常に知的である。リサイタルの場合には、音楽史が見通せたり、あるいは通常のパースペクティヴに変更を迫るようなプログラムを組んだりする。ここでは、24番という通常ロマン派よりに演奏される曲を、むしろまだロココの雰囲気たっぷりの曲と組み合わせて、モーツァルトの変化、そして24番も短調でドラマティックな曲想があるとはいえ、ロココ的な要素のあることを十分に感じさせる音楽づくりとなっている。

無論、短調の悲劇性が軽視されているというのではない。ポッリーニも、24番では、その表現の振幅の大きさを音楽的に表現している(3楽章、CDトラックナンバー6の2分30秒以降が、顕著な例である)。しかし、モーツァルトはたとえばベートーヴェンの英雄以降の音楽と較べれば、ロマン派の先取り要素はたしかにあるのだが、ロココの秋、ワトーやブーシェの絵画を思わせる要素もあるのだ。ふと、悲しみに傾くかと思えば、そこからふとにこやかな表情に音楽は変わっていく。

モーツァルトが、この二つのコンチェルトを書いたのは、フランス革命の直前であって、後ではない。

ポッリーニは、全体として、非常にバランスを重視して、感情表現にのめり込むことなく、音楽を作り上げていく。特に24番に対して、あらかじめロマンティックな表現に対する期待が大きければ、このポッリーニの音楽性に対して不満を感じるかもしれない。しかし、虚心にこの曲の作られた時代の様式、また12番と24番の変化と連続性を考えると、実に多くのことを考えさせられ、感じさせられる充実した演奏である。こうした演奏が、ポッリーニのきわめて高度なテクニックにより、粒のそろった音、そして構築的な音楽性によってがっちりと支えられていることで、繰り返し味わうにふさわしいCDとなっていると僕は考える。ヴィーン・フィルとモーツァルトの音色の適性については、言うまでもない。

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