『古楽の楽しみ』
NHKのFM放送の『古楽の楽しみ』を聴いている。
今は、NHKのらじるらじるの聴き逃し配信で聴いている。らじるらじるの聴き逃し配信というのは、youtube のようにオンデマンドで聴けるシステムで、ただし聴ける期間は一週間で、無料だ。
かつては、この番組は午前6時からだったが、その後、5時からになったり、再び6時からになったりしたが、再び5時からになって、僕はらじるらじるを利用して、番組開始時間を気にせず朝食の時間などに聴いている。
さて、ここで紹介したいのは、この番組の素晴らしさだ。毎週、番組の案内者(番組の構成とアナウンスを兼ねている)が変わる。しかも毎週、古楽の専門家・研究者・演奏家が月曜から金曜の5つの番組に一つのテーマを与え、いろいろな角度から作品を紹介し、演奏をCDなり、演奏会の録音で紹介してくれる。講師(案内者)の話は、一般の視聴者向けなので、親しみやすく判りやすいのだが、しかし紹介される作曲家、作品は、一般のクラシックファンになじみのないものも多い。実際、バロックの作曲家、作品は、今も年々新たな作品が発掘されたり、新たに演奏されるようになるものも多く、研究の最先端が演奏の最先端と結びついている。つまりそこがモーツァルトやベートーヴェン、それ以降のロマン派の有名な作曲家とは事情が異なるところだ。
自分にとって新たな作曲家や作品が、既知のバッハやヘンデルやヴィヴァルディやラモーといった作曲家とともに、毎週、専門家によって解説され紹介されるのを聴いているのは、常に新たな気づきがあって楽しい。実に贅沢な時間であると思い、ありがたく聴いている。
例えば今週の番組は「20世紀の文芸と古楽」というテーマで、紹介は遠山菜穂美氏。月曜は、ロマン・ロランが紹介された。無知な僕は、ロマン・ロランと言えばベートーヴェンというくらいしか知らなかったのだが、彼は古楽をいち早く深く知っており、リヒャルト・シュトラウスに、古楽の素晴らしさを説いていたのだ。バッハのライプツィヒでの前任者ヨハン・クーナウの「聖書ソナタ」をシュトラウスにお勧めしていたという。無論、番組では実際に「聖書ソナタ」が流される。
木曜日にはポルトガルの作家サラマーゴの小説『修道院覚書』という小説が紹介されたが、この小説にはドメニコ・スカルラッティが登場するというのだが、知らなかった!
金曜日には、堀辰雄や梶井基次郎の創作と西洋音楽の関係が紹介された。堀辰雄が軽井沢にあったチェコスロヴァキアの公使館別邸からピアノの音が聞こえて来て、聴き入っているとそれがバッハのト短調であるとわかったと堀が書いている。堀辰雄は、小説の構想にこの音楽を取り入れている。ト短調フーガはバッハの平均律曲集に2曲あり、それがアンドラ—シュ・シフの演奏で2曲とも紹介された。梶井基次郎については、梶井が実際に聞いたフランス人ピアニスト(日本で6日演奏会を開き、梶井は全日聞いたという)の演奏がSP復刻で紹介された。遠山氏が言うように、古楽であってもテンポを揺らし、自由なスタイルであったが、1902年生まれの梶井が若き日に古楽を聴いていたのだ、しかもこの人の演奏でと思うと感慨深いものがあった。堀も梶井も、1900年代一桁の生まれであり、20世紀後半から現在にいたる古楽の新たな演奏スタイルとは無縁だが、ピアノ演奏を通じて、創造力を駆使して、バロックの息吹にふれていたことは間違いのないことなのだと知った。
前述のように毎週、案内者は変わるし、週によっては最近の演奏会からということもある。また、金曜日はリクエスト特集で大塚直哉氏が、リスナーのリクエストを紹介して、そこに専門的知をさりげなく紹介して、こちらの理解を促してくれる日もある。
というわけで、新たな気づきがある番組なのだ。


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